さっぱ舟と共に浮かぶ多古町の記憶を未来へ
かもちんの会・副代表 並木さんインタビュー
千葉県多古町を流れる栗山川。その静かな川面を、ゆったりと進む小さな舟。かつて人々の暮らしの一部だった「さっぱ舟」を現代に蘇らせ、観光や遊びの場として提供しているのが「かもちんの会」だ。今回は、副代表の並木さんに、活動の原点から今後の展望までお話をうかがった。
――「さっぱ舟の運航」は、どういった経緯で始まったのでしょうか?
副代表:並木さん
はじまりは40年ほど前になります。仲間内で「多古町には観光資源がないから、せめて親子で遊べる場所を作りたいよね」と話していたんです。同時に、当時の栗山川はゴミが散乱していて、「なんとかできないか」とも思っていました。
そこで、「舟の遊覧を始めれば、川の美化にもつながるのでは」という仲間の声をきっかけに遊び半分で活動がスタートさせました。
まずは川の清掃から始めたんですが……もう当初は本当に酷かったです。大量のゴミに加えて、動物の死体まで投棄されていて、心が折れかけましたよ、ほんとに。
舟も持っていなかったので、地元の方から譲っていただき、自分たちの手で整備・点検を繰り返し、なんとか運航を開始できました。こうした地道な努力と地元の方々の協力があって、ありがたいことにさっぱ舟の運航を約40年間続けることができています。
――団体名「かもちんの会」の由来を教えてください。
並木さん
雷魚(ライギョ)って聞いたことありますよね?雷魚は別名「かもちん」とも呼ばれているんですよ。今では信じられないかもしれませんが、昔の栗山川にはこうした魚がたくさんいたんです。
中でも雷魚はインパクトがあって、名前としても覚えやすい。そんな理由で、「かもちんの会」と名づけました。
――現在はどのような活動をされているのですか?
並木さん
現在、スタッフは18名ほど在籍していますが、実際に動けるのは7~8名です。週末の9時から15時まで、さっぱ舟の運航を行っています。
操船には船舶免許が必要で、現在は4人の船頭が交代で担当しています。
――活動の中で、印象に残っている出来事はありますか?
並木さん
もちろんありますよ。私は話すのが得意で、よく乗船してくれた方に「楽しかった」と褒められるんです。拍手までいただくこともあって、もうこの上なく嬉しいですよ。
特に印象深い出来事としては、常連のお客様が病気を患い、「余命が後1か月。でも、どうしても最後にさっぱ舟に乗りたい」と言って来てくださったことがありました。歩くのも難しい状態だったので、こちらでサポートして乗っていただきました。
帰りにはとても満足してくださって……涙が出るほど嬉しかったです。あの時の気持ちは今も忘れません。
――活動を続ける中で、現在感じている課題はありますか?
並木さん
一番は「後継者不足」です。現在、メンバー全員が70歳以上。最年少でも71歳という状況です。
1人で舟を動かすだけなら2級船舶免許で足りますが、人を乗せて運航するには講習を受けたうえで特別な免許が必要で、難易度が高い。知識も技術も求められるんです。
私自身も免許を取るために、横浜まで通いましたよ。現在この免許を持っているのは7名ですが、その多くが体調や家庭の事情で活動に参加できず、今年で引退するスタッフもいます。
このままだと来年は実質3名だけになります。さっぱ舟を安全に運航するには、操船・見守り・安全管理の3人は最低必要。つまり1人でも欠けたら、40年続いたさっぱ舟の運航が続けられなくなってしまうんです。
――後継者を増やすために、何か取り組まれていることはありますか?
並木さん
チラシを配ったり、ホームページで活動報告をしたりはしています。ただ、今ではチラシを見る人も少なくなり、ホームページの更新も止まっています。
本当はSNSなどを活用してもっと情報発信したいんですが、やり方がわからなくて……。
以前、若い女性が「手伝いたい」と言ってくれたことがあったんですが、彼女は給料が出ると思っていたようで。私たちはボランティア団体なので、報酬は出ません。そこもなかなか難しい部分です。
――今後の目標や展望について教えてください。
並木さん
大きなことは言えませんが、「無理なく続けていくこと」が一番の目標です。
乗ってくれた方から「心が落ち着いた」「昔を思い出した」と言っていただけると、本当にやっていてよかったなと思います。
今後は多古町や隣接する道の駅とも連携しながら、人々が気軽に立ち寄れる「遊びの場」を作っていけたらと考えています。
最後にこれから乗船する人、参加を検討している方にメッセージをお願いします。
ぜひ、気軽に遊びに来てください。船から見る景色は、陸からとは全然違いますよ。そして、「こんな活動があるんだ」って知ってもらえるだけでも嬉しいです。後継者も募集していますし、興味のある方はぜひ、一度お声がけください。
40年以上続く、千葉県多古町・栗山川の「さっぱ舟」運航。
副代表・並木さんをはじめとする「かもちんの会」は、“遊び心”を大切にしながら、人々に心温まる体験を届け続けている。
今、地域の記憶を舟にのせ、次の世代へとつなぐ大切な岐路に立っている。